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2024/10/06(Sun) 19:21:28

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主小田主祭一人で開催中!!「お祭・企画」カテゴリーでみれるよ!応援よろしく


 うっかり10時間も寝てしまいましたおはようございます。10時ぶんの更新です。予告したとおり主小田主長編「風に立つ」の一部公開です!
 ネタ帳の中身いっぱいあるのですが、まず最初からということで「魔術師」の1話、つまり本編第一話予定のものを投下します。雰囲気こんなです。しかし小田桐が相変わらず出てこないことに編集しながら気付いたマリモだった。

 


Ⅰ魔術師 第1話


 季節は流れる。遅く速くすべてのものを送る。
 季節を重ねて、時が動いていく。時が動いて、始まりや終わりがその中を流れていく。息をするように人は季節の流れを美しいと思い、そして時が運ぶ始まりや終わりに翻弄されもする。その営みの中を、静かに風が吹いていく。それをハルは、当たり前のことだと思っていた。
 当たり前の決まりごとだとだけ思っていた。そうして、静かに風に吹かれていた。風は心地良く透明だった。
 あの人をその静かな目に映すまでは。


 玄関の扉をくぐると生ぬるい空気がハルの長い前髪を撫でた。少し風がある。さかりを過ぎた桜の花びらがタイル敷きの上を踊っている。今年は散りが早いな、とハルは眉を下げた。
「どした、ハル。変な顔しやがって」
 靴のかかとを直しながら順平が追ってくる。陽気な顔をしていて、何かの嫌味かと思ってしまう。いつも陰気な自分の小さな変化まで見分けてくるのは、彼の天性の気遣いの賜物だとハルは知っていた。
「順平に変な顔とは言われたくないけど」
「おい!こんなナイスガイに何言っちゃってんの!」
「や、桜が……、」
「は?桜?」

 桜が散るのはなんとなく恐ろしい。春が終わってしまうようだから。

 ボケをスルーしたことに対しては、順平もいいかげん慣れてきたらしく特にリアクションを返さなかった。かわりに素早く並木と相手を見比べて、風にはためいたドレスシャツの襟を直した。
「……あー、風、強いな。そう言や、雨も降るんだっけか。つか、そんなことで沈んでんなよ!オレ達には輝く明日があるだろー!」
 励ましの意味を込めたにしては強すぎる打撃アタックが、ハルの細い肩から背中にかけてを攻撃した。ハルはもともと猫背の背筋をさらに丸めて軽く咳き込んだ。
「……別に沈んでない」
「いや、マジさ、おまえここんとこずっとそんな顔してね?もしかしてイメチェン?それ以上ネクラキャラんなってどうすんだよ」
「順平が浮かれすぎてるからそう見えるだけじゃねえの?ほんと、地に足つけろ。ゆかりにどうにかしてって言われたぞ」

 3年になってクラスが替わって、ゆかりと順平はまた同じクラスに、ハルは風花、アイギスと同じクラスになった。
 クラス替えの掲示を見たとき、ゆかりはあからさまに嫌そうな顔で順平を見上げたものだった。ゆかりにとっては3年めのことであるうえに、ここ最近の順平のシアワセ臭ときたら、『去年』の全盛期をしのぐ放出量となっている。
 独り身としてはたまったものではないその責めを受ける時間が少なくなったことは、ハルにはかなり幸いなことといえた。

 そんな胸中を知らず、順平はもともとしまりのない顔をさらに緩ませた。諭したつもりだったが、どうやら煽ってしまったらしい。
「いやー、それ、人も羨むラブラブ光線ってやつ?だよなーだよなー、ホンット悪ぃーよなーオレだけ先に幸せになって。おまえもゆかりッチも早く幸せになれよ…うんうん。オレ応援しちゃうからサ」
「……今日も病院?」
「まあなー!チドリンがオレを待ってっから!
 てか、おまえ部活は?今日まだやってなかったっけ?」
「おれも病院行く」
「は?またオレらのラブオーラにあやかりに来んの?」
「検診」

 順平はおお、と低い声で言って表情をトーンダウンさせた。
 ハルの肌はすこし青白く、体も17の男にしては小柄で細く見える。その実細身の制服の下には意外にしっかりとした筋肉がつき、ときに驚くようなポテンシャルを見せるのだが、最近彼は白皙の見た目にふさわしくしばしば病院に通っていた。場所は順平が向かうのと同じ。

 辰巳記念病院。学園と同じく桐条資本の病院だ。学園から近いということもあるが、桐条のもとでしか受けられない特殊な検査もある。そもそも、その検診自体ハルが不調を感じてのものではなく、桐条に請われてしているようなものなのだった。

「その、さ……、どんな感じ?その後」
 順平はキャップのつばをいじりながら小声でたずねる。へんな気遣いだ、とハルは口元だけで笑った。別にとくべつ痛いことがあったわけでもないのに。
「どんな感じもない。何もない、みたいだよ。そう聞いてる」
「……そっか。なら、いんだけど」
 順平はまたキャップを直した。

 ハルは1月前の3月5日、謎の昏睡に陥った。

 屋上はうららかな春の陽のあたたかさで満たされていた。春のにおいが風に吹きあげられるのを、寝そべった視点のままに目を細めて見ていた。
 空が、穏やかな色に光っていた。まぶたの裏にもきれいな青が映るようなので、笑みながらゆっくりと目を閉じて、雪のように空色に解けていった。そのまま長い長い、眠りに落ちていった。

 それに至るまでも体のどうしようもないだるさと強烈な眠気を頻繁に感じていた。しかし今思うと不思議なことには、それが不快だったような記憶がない。よっていつからということは細かくは思い出せないが、2月中に徐々にひどくなっていたようではあった。
 経緯はともかくとして、昏睡は続いた。眠り込んだ体を順平が背負い旧寮に戻っても、一夜が明けてもハルは目覚めなかった。ただ規則正しく、いっそ心地よさそうに続く呼吸と戻らない意識に、寮の一同は既視感と不安に包まれて彼を入院させ、どこに異常があるのか調べた。結果は、どこにも異常は見られないという奇妙なものだった。
 一通りの診断はもちろんのこと、桐条独自の―――、『能力者』としての細かい検査も行われた。この観点において彼が『異常なし』であることに、調べた者は驚かされた。『能力』自体の、一連の事件でさらに活性化した反応は消えていた。それは他の者にしても同じことだった。だがハルはかつて、能力者であるということ以上に、この観点の検査で類を見ない、その意味するところさえ解らない『異常』な結果を叩き出していたのだった。
 それが綺麗さっぱり消えていた。
 まるでその検査結果が別の人間のものであるかのように。


「順平に言ったってしょうがねぇことなんだけど、」
 検診は今日もまったくの異常なしだった。吉野千鳥の病室でいつも通り彼女と談笑していた順平は、検診を終えて病室に顔を出したハルと一緒に病院を出ることにして、まだ日が短くうす暗い中を帰路についた。駅に向かう途中、ハルが下を向いたままぽつりぽつりと呟くように話しだした。
「んー?」
「小田桐が生徒会をやめるんだ」
「……また小田桐かよ」
 順平は口元をわずかにひきつらせたが、どこか微笑ましいような気分でハルの伏せた目元を見やった。
 ハルのまつげの長い、ほの暗いが印象的な目には、悲しいような、浮かれているような、戸惑うような、寂しがるような、複雑な色がうっすらとさしている。順平はそれを見て、浮世離れした親友に身近さを覚える。

 小田桐秀利。
 昨年度の風紀委員・生徒会副会長であり、今年度は会長に、と一部では目され、また本人もそれを狙っていた、現在の3年生。厳格な規則を重んじ、昨年度の1学期なぜだったか多くの生徒から顰蹙を買っていたようだが、あるときを境に柔軟な姿勢を見せはじめ徐々に信頼を得ていった。
 順平は表向きだいたいそのくらいの、月光館学園高等部生徒一般の情報しか持っていなかったが、しばしば彼がハルと一緒にいるのは目にしていた。
 ハルは生徒会に手伝いに入っていたから、クラスの違う彼ともよく廊下で主に仕事の話をしていた。順平の知る限りでは小田桐秀利と楽しげに談笑する生徒は全校でもハルぐらいだったが、二人とも仕事の話をよくもまあそんなにも楽しそうに、と感心するほどいきいきと話していたものだった。
 特にハルは、ときどき順平は見たこともないような眩しそうな顔で笑った。普段の無味乾燥ぶりを見慣れている順平にはハッとするを通り越してギョッとするような美しい笑顔だったが、小田桐秀利にとってはそうでもないのかごく普通に少し笑み返すだけだったのを鮮明に覚えている。

 順平に言わせれば、佐伯ハルは小田桐秀利に熱烈に片思いしていた。

 そうとしか思えない、と確信したそのときはさすがに、自分の人間観察能力の高さを呪いつつおまえちょっと待て男同士だっつーの、と他人事ながら困ったが、そのうちどうでもよくなった。順平自身その頃吉野千鳥に出会い恋をして、どうしようもなく浮き沈みしながら今日を過ごし、明日を待っていた。自分が千鳥とまた会うために明日へ進み、その明日を守るために戦うように、ハルも誰かとの絆のために戦っているのかと、順平は感覚的に納得した。
 きっと、小田桐が柔軟に変わりだしたのもハルの与えた影響なのだろう、と順平はなんとなく察した。そう考えると悪いものではない。なにより、つかみどころのないハルが人を想って自分と同じ地面に着地するのが嬉しかった。そういうときのハルは子どものように自分の感情を扱いかねていて、順平はここぞとばかりに『色恋沙汰の先輩』を自称して何かと相談に乗ることに決めていた。

「おれは、もともと美鶴さんの手伝いで入ったわけだから、今年残る理由もないんだよ。でも去年やってて小田桐の手伝いすんのすげえ楽しかったからさぁ、今年も何かで参加できたらなぁって。でも小田桐は今年、立候補しないって言うから」
「えってか待って、それマジなん?あいつスッゲー会長狙ってたってハナシじゃんか。そうでもなかったの?」
「それはそう、なんだけど」
 そこまで言ってハルは口元をもごもごと動かした。にやついては困ったように口角を下げる、を数回繰り返し、また口を開く。
「こうなんていうか、心境の変化で。この一年で志すところが変わったんだって。本人に聞いた。それでさ、」
「おー」
「おれのこと一生忘れないんだって。それってどうなの?すごい嬉しいけどどうなの?実際、おれとは去年きりの仕事仲間って言い回し?」
「ま、まあ、あんま言わねえな」

 話のつながりがわからない。順平はだんだん相談を受けているのかのろけを聞かされているのかわからなくなってきた。ハルは時折襲ってくるニヤけの制御に四苦八苦しながらも概ね真剣な顔をしている。溢れ出した戸惑いを自省して少しきまり悪げにしてから、順平の顔をちらりと見上げた。

「要するに小田桐と会えなくなるからどうしよう。どうしたらいいと思う順平」
「オレだってチドリとガッコで会えるとかじゃねえからなあ。会いにいけばいんじゃね?」
「…それがさぁ…、考えてみたらおれ、今まで小田桐に仕事の話しに以外で会いに行ったこととかないんだ」
「ふーん、確かにまあそんな感じだったわな。そっか…」
 順平ならそういう細かいことはかまわず会いたい人には会いに行くのだが、ハルがそういう感情にまかせた行動をとれないのも知っていた。願望薄い彼が、いま願望の塊ともいえる恋に直面してめったに見せない戸惑いの表情を見せている。それは順平へ恋心を抱き始めたころの千鳥にも似ていた。

「つーかさ、いっそ」
「ん?」
「普通に付き合っちまえばいいんじゃね?」

「はっ、え、はぁっ!?」
 順平の助言にハルはその場で足を止めて仁王立ちになった。なるべくさらっと言ったつもりだったが、みるみる顔を赤くする彼を見て順平はいやに気恥ずかしくなった。
「あーっもう、な、なんだよそのリアクションー!こっちはおまえのシュミとかあえてスルーしてんのに、恥ずかしいじゃねーかよ!」
「だっ、で、でも付き合うとか、そ、なんでェ!?」
「ふ、深い意味は知らねーよ自分で考えろよ!一緒にいる時間増やすってそれが一番手っ取り早いだろ!わかれ!」
 順平のわかれ、の大声にかぶせて6時の音楽が鳴った。二人は既に駅前の広場に着いていたが、6時3分のモノレールの発車をはっと思い出して改札に急いだ。



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順平は平賀先輩の存在を知らんようですがそのほうがいいと思います

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2010/12/25(Sat) 10:41:54
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