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2024/10/06(Sun) 17:16:19
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 10時ぶんの更新にひきつづいて、主小田主長編「風に立つ」一部公開にさきがけた冒頭2話連続公開です!今回は「魔術師」の2話の長いので前半。まだごらんになってない方は10時ぶんの更新に1話がありますのでそちらも読んでいただけると幸いです。
 2話前半もいまだ小田桐はしゃべらない、マリモはどんだけ小田桐との間に距離を感じているのだといううそ寒さを感じる内容ですが、2話は主人公佐伯ハルの一人称になっているので超小田桐スキスキをご堪能ください。そういえば佐伯ハル一人称も初公開なのでは?こんな子です。
 2話後半ではいよいよ小田桐出てくるので前半読んでね!


Ⅰ魔術師 第2話(前編)


 ―――逆光の細い背中。それがおれのすべてだった。

 まるでそれ以外のことを覚えていないとでもいうように、その情景はいつまでもいつまでも繰り返されていたように思う。夢の話だ。3月5日になぜだか寝込んで、長々と目を覚まさなかったときの。
 青い、ぬるい海のような無感覚に漂う合間合間を刺すように、その白々とした光は幾度となくあらわれた。おれは乾いた、石のような青白い床に立っている。学校だ、と認識した。そしてだいたい3メートルぐらい先に、例の背中が見える。かっちりと髪をなでつけ、目測でおれより10センチちょっとも背が高くて、そのくせなんとなく貧相な、――その上にそういう生身を、越えたような硬質さをまとった制服の肩。あざやかな色の腕章がもはや記号化されて一目でおれをせつなくさせた。

 要するに小田桐が後ろを向いて立っていた。
 表情は全く見えなかった。そしてそれはさして重要なことじゃなかった。おれは小田桐と、小田桐の後ろに立っている自分を知覚しながら、何かそれを見て確認することでもあるみたいにその背中を一心に見つめていた。
 暖かくて強い色の光が細いシルエットをさらにちょっと細めていた。夕方の光だった。まだ暗くないそれに、ああもう春なんだな、と思った。春になったら、小田桐は何をするんだろう。何を見るんだろうか。教職を目指すって言ってたっけな、何の先生になるつもりなの?小田桐。

 光と彼のつくる影にすっぽりくるまって、おれは彼が往く明日が存在していることに深く満足する。それを見たい、と思う。彼が進む姿をこうして見上げたい。そういうものを、自分が守ろうとしたのだということを、そこで思い出した。そんなことを思い出すまでもなくものすごくおれは小田桐を守りたいのだけども。そしてそんなの問題じゃないくらいに、おれは小田桐に守られているのだけども。
 君は守る、と言ってくれたことが、本当にどれだけおれを守ったか、小田桐は知らない。かたちのないそれに、報いられたら、と思った。どうやったらいいのかまるでわからなくて、そんなことは初めてで、すごく困った。小田桐に会いたい、と思った。何の先生になるのかとか聞いてみたいと思った。目の前にいるのを見てんだから話しかけりゃいいじゃん、と今考えると思うが、夢らしく、なぜだかそういう発想はなくてただ会いたいなあと思っていた。強いて言えば、小田桐にお返しする方法を考えてたのに途中でいきなり会いたいって、変なの、とか、そういうピントのずれたようなことを考えていた。
 会いたい。小田桐に会いたい。会って声を聞きたい。姿勢のいい立ち姿を見上げて、その後ろからさす光の影に入りたい。変なの、まだどうやってお返ししたらいいのかまるで見当もつかないのに、会いたい―――……。

 おまえに会いたいよ、小田桐。
 もし、おれがおまえに、何も返せないんだとしても。

 べしゃり、と白に赤黒いゲルがはじけた。
 赤黒で塗りつぶされたまぶたにしみる光の強さにおれは目を覚ました。カーテンを閉めずに寝てしまったことに気付いて、空の色の浅さをまぶしく見ながら反省する。これじゃもう二度寝はできないだろう。
 まだ新しい部屋の間取りに慣れきっていない。東日がちょうど枕のあたりに向かって差してくるようなレイアウトだから、ちょっとまずったかなと思う。寝坊しなくなるならいいけど。
 寝巻きのままでキッチンにふらふらっと歩いていって、そこではじめて炊飯器の液晶にうつった時計を見る。5時43分。まだ少しは二度寝できる時間だったか。今から布団に戻っても眠れないだろうけども。

 分寮が閉鎖して、4月あたまからだから、ちょうど二週間前から神社北の古いアパートに住んでいる。もともとは桐条の社員寮みたいに使われてたのを、ポートアイランドにいろんな機能を移してからはかるく改装して普通の物件にしたものだそうだ。
 ただなにせ会社とかが移転した跡なわけだからへんな土地の空きはあるし、いまいち市街からは遠いしで住みたがる人も少ないし。そういうわけで不動産としてはそろそろ取り壊すかどうするか、ぐらいの扱いだった、らしい。美鶴さんによると。おかげでおれの住んでるこの1階の部屋なんか最初はやばかったらしい。これも美鶴さんによると。おれはそこを業者さんが掃除してくれてるときまだ病院だったので知らないけど。
 目を覚まして分寮が閉鎖すると聞いて、それじゃあと一人暮らしの部屋を希望したおれがお見舞いに来てくれていた美鶴さんになんとはなしに相談すると、美鶴さんはだいたいの希望を聞いてじゃあ明日な、と言って帰った。多忙なあの人が二日連続で見舞ってくれるのか?とびっくりしていたら翌日不動産アドバイザーであるという人がいくつか物件情報を持って訪ねてきてさらにびっくりした。あっさりとした行動のスケールに今更ながら気圧されつつ選んだのがここだ。

 料理をやるので、キッチンは狭くないほうがいい。楽器をやるので、防音と近所迷惑が気にかかる。静かなところで、できれば見通しがいいといい。管理人すら3日に1回しか来ないこのちょい辺鄙なアパートはオールOKだった。業者さんによって塗り直されたやたらと真っ白い壁も性に合っている。

 手早く米をといで炊飯器にかけた。本当はピザトーストでも食べていくつもりだったけども時間はあるし、たまには魚とか味噌汁の、旅館の朝もいいだろう。


 少しあったかい風が気持ちよかった。窓際になった席でぼんやりしながら、昨日順平とした話のことを考えていた。人に言われて我を忘れるほどものすごく驚きはしたが、考えたことがないわけではなかった。最近よく考えてる。小田桐に特別に愛してもらう『一番手っ取り早い』方法について。順平いわく、『普通に付き合っちまえばいいんじゃね?』について。

 考えて、いつも、なんてことを、わけわからん、と思う。
 小田桐が男でおれも男だとかそういう焦点からではなくて。

 『オレだってチドリとガッコで会えるとかじゃねえからなあ』と順平は言った。その通りだと思う。無理に会わなくても、一緒にいる時間、なんて、少なかろうが、変わらず相手を大事にできるってことが、強い絆というものだろ。本当は小田桐と単に会いたいなんて思うほうがなんかおかしいんじゃないだろうか。だいいち、会って何になるんだってのか?
 仕事の話、なんてもうない。するどく理想を語るほどには小田桐の志はもう居丈高じゃない。それを聞いたとき、小田桐はとても成長し、それに対しておれができること、するべきことにはもう区切りがついたのだと感じた。泣くほどうれしかった。おれなんかが小田桐のようなやつにいい影響を及ぼせたのだということが。なのにおれはそれだけでは足りないっていうのか。足りているべきだ。というか、足りているはずなんだが。
 『特別に愛してもらう』なんて重たいものを必要としないはずだ。ただおれは、春休みどころか3月上旬から寝ててひと月以上も彼を見ていないから、それですごく会いたくなっているだけなんだ。そうに違いない。去年の夏休みだって、そうだったんだから。
 今日の宮原先生はテーラーの定理の美しさに夢中で当ててこない。微分積分トークを聞きながらすうと目を閉じた。うすら白いまぶたの裏に一瞬細いシルエットが映りこんだ気がした。



**********
 冒頭の「逆光の細い背中」のくだりは主小田主絵ログ4つめの最後の絵のあれ。佐伯ハル小田桐秀利を神格化するの巻。
 あと1話から語られてることですが佐伯ハルは3月5日に寝てよく寝てよいしょと起きています。象徴的にはそこで死んだということなのですが、マリモの書く主人公でマリモは生きてるので、「死を体験してそこから先を生きるプレイヤー自身」という意味合いになっています。さらにこの話ではその昏睡によるゆるやかな死(をよしとしてしまうこと)をユニバース逆位置の発現というふうに象徴させてもいきます。
 もう語りまくってしまうとこの話の主人公の成長は「ユニバース逆位置→小田桐神格化→恋→またユニバース」をループしながら進んでくことになります。何者でもないことに満足しようとすると小田桐の光を求めて、小田桐の逆光の影に満足しようとするともっと欲しくなって、欲しがってしまうと自分のわがままに衝撃を受けてゴメンナサイ何も欲しがりませんとまたユニバる、という繰り返しです。まあよくあることだよね。

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2010/12/25(Sat) 11:47:12
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