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10時、11時ぶんの更新にひきつづいて、主小田主長編「風に立つ」一部公開にさきがけた冒頭2話公開のさいご、「魔術師」2話後半です!1話および2話前半をごらんになってない方は10時11時ぶんの更新を読んでいただけると幸いです。
ついに小田桐が登場します!しゃべります!(ものすごいことのように) ここまでが長かったですね!なんだかんだ言ってマリモの描くしゃべる小田桐はアンソロ寄稿ぶんでしか見られなかったのではないでしょうか?ネタ帳では(小田桐としては)不自然なくめっちゃしゃべってるんですが。
2話公開の後はそれを前提として、「風に立つ」の中のシーン断片メモをセレクトしてちょこちょこ公開していきます。では↓
Ⅰ魔術師 第2話(後編)
生徒会資料の引継ぎというのをするらしくて、昨年度自分が集めた情報やらしたことやらをまとめた。と言ってもおれは一年間何かやっていたわけでもなくて、もともと美鶴さんや小田桐のする何かしらについての資料を『まとめる』ことばっかりしていたので、そればっかりでやたらと多くなった。まさしく資料だ。腕の中の紙束の質量を確かめると達成感で顔が緩んだ。在校生は4月16日までだというので余裕をもって今日出しにいくことにする。
新二年生であふれ返る昨年度の自分の教室の前を通って、一応小さく失礼しますと言って生徒会室の扉を開けると先客がいた。かっちりと髪をなでつけ、硬質なのに不思議とやさしい色彩を放つその人は後ではなくこちらを向いていた。少し、違和感を感じた。
「佐伯くん?」
顔を輝かせてひさしぶり、と言おうとしたのが、その前に小田桐がすごく驚いた顔で呼びかけてきたので出鼻をくじかれた。リトライしてひさしぶり、と言いながら会議机を迂回して歩み寄ろうとすると、珍しく小田桐も早足に寄ってきて結局窓側の机の角あたりでかち合った。
「どうしたの。」
まだ目を見開いてる小田桐に軽く笑いながら言うと、両肩をつかまれて、ぎょっとした。おだぎり――、と口の中だけで言ってもあちらにはもちろん聞こえず、なかば反射的に目がいった唇がはきはきと動いた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫って―――。」
あいさつよりも先にきた心配の言葉にうまく答えかねた。肩の骨とか筋肉の存在を、確かめるように手が制服の上を少しだけ動く。おれの骨や肉を確かめようとするなんてと、なんとなく不自然に感じた。
「……会期満了打ち上げに来なかっただろう。桐条先輩から聞いたよ、入院していたんだってな。」
「あー……、」
「心配していた。もう、なんともないのかい?」
「うん、平気。」
不自然さに首を傾げながらも、子どもの肩をゆするような仕草にはひどく幸せになる。なんとなく苦々しいように顔をしかめて、細くなった、と小声で言って小田桐は手を離した。うそつき、おれの肩なんてそんなに触ったことないくせに。
会期満了打ち上げといったら確か美鶴さんの予定が空いた終業式の3月24日のことだ。たぶんそんなときまでまるで知らなかったということを、情けなく思ってでもいるのだろう。
「別にいいのに。」
小田桐は何か言いたげな顔をしたが、結局何も言わずもといた場所に戻っていった。目をやって、さっきの違和感の正体に気付く。あざやかな黄色の腕章が机の上に寝ていた。
「小田桐、それ」
「ん?」
「腕章」
「……ああ……。」
なんだかこっけいなほどきっちり明朝体にレタリングされた風紀という字は、彼の二の腕にとまっていないと別のもののような感じがした。あれほど記号化されて脳にダイレクトに響いていた刺激のはずが、なんにも感じないのはどうしてだろうと思う。おれにとっては小田桐の姿のアクセントとして、目を引いていただけにすぎなかったんだろうか(それとも制服の黒と黄色という警戒色が目を引いたとでも?)。いっそこの腕章に惹かれるなら、おれのすべきことは今年も変わらず、そうしたら明快なんだろうになとも思う。どこか少し残念だ。
「引継ぎに来てくれたんだろう、君も。すまなかったな、面倒な雑務ばかりで」
「ううん」
「僕の引継ぎ物品といえばこれくらいのものだ」
小田桐は机の上のファイルと、腕章に指先だけで触れて離した。腕章が別のもののようであるように、腕章と離れた小田桐も不思議と別のもののようだった。
他の生徒と何の違いもない黒い制服の姿は少し若々しいようで、それでいて何年も会っていなかった人に会ったときのようで、見慣れているべき彼の姿が妙にあたらしかった。
黄色の帯をなくした右腕を中心にどぎまぎと眺め回していると、さすがに気付いて小田桐は顔を歪めて笑った。
「そう君に見られるとすうすうする」
「ごめん。こう言うのもあれだけど、なんか不思議な感じだな」
「そうだな、僕も落ち着かない。もう、僕は生徒会の何者でもないんだな」
ちらと生徒会室を見渡して、そこまで言うと小田桐ははたと額に手をやった。
「違うな、その言い方は」
ぽつりと呟き、軽く髪をかき上げてゆるく腕を組むと、真正面からおれを見るように姿勢さえ正した。一瞬で視線をがっちりと絡まされたと思うと、小田桐はいつものように不敵に晴朗に、ニッと笑った。
格好いい。
「生徒のすべてが生徒会の構成員だ。僕は僕、今年もどこかで何かしらの役割を果たしていく。たとえそれが指揮する側でないとしても、そのひとつひとつの役割が世界を作っていくだろう」
笑みを含んで朗々とした宣誓のような言葉が明らかにおれだけに向けて述べられていた。おれはそれを嬉しく思いながらも、自分がその誓いを受けて証すだけの器たりえるのかと不安で、申し訳ない気持ちにもなった。
小田桐はふっと空気を緩めた。
「……そのひとつひとつを大事にしたいと、僕は役員をやめたのだものな。問題はない。君から得たことを、実行するつもりだよ」
「おれは関係ない。小田桐の成長だろ」
「君に聞いて欲しかった。急に言い出してすまなかったな」
おれの否定を、小田桐はいつもまるで聞いちゃいない。おれが否定しようが証すことができなかろうが、かまわないという強さなんだろう。胸が苦しかった。表情は動かさないようにつとめた。
話題がすっきりと終わったと思ったのか、無言になって小田桐がすっと片手を差し出した。意図を探って目を覗く。
「受け取ろう。僕の資料と桐条先輩の資料と、まとめて綴じなければ」
「ああ、うん」
数歩の距離を再びつめて両手でもって資料を手渡すと、小田桐はクリップでとめられた自分関連の資料を一目で判じて、人差し指と親指で他のものと区別した。
その指に少し力がこめられたのが、見てとれた。
「こんなにか」
「うん」
「桐条先輩のものより多いのでは」
「そうかもね」
もちろん美鶴さんの作った資料よりという意味ではなく、おれが美鶴さんを手伝った資料よりという意味だ。非難するでもなくあいまいに肯定すると、小田桐は苦い顔になった。
「まいったな……。君はもともと桐条先輩を」
「いい」
「しかし、責務以上の」
「おまえを手伝うのは楽しかったからいい」
苦い顔のままおれを見て目を見開いて、小田桐はちらりと資料を見た。一拍置いて小さく溜息のようなものを発すると、やがて笑う。
「……僕も楽しかった」
人差し指と親指ではさまれた資料を取って、小田桐は開いていた風紀委員のファイルの中身のいくらかとの間にそれを綴じこんだ。きっと小田桐の書いたものだ。おれは件の、小田桐の影に自分が包まれるような妄想を楽しんだ。
不思議だった。
小田桐が「楽しい」だなんてな。
「なぁ、これはどうするの」
「ん? どれだ?」
「おまえでも、美鶴さんでもない雑事のような……」
「ああ、それなら。貸したまえ」
ひょいと取って、小田桐はふっと思案顔をした。
分類がやっかいなのかと思えば、てきぱきと何かのファイルを見つけて開いている。手は迷いなく動いているのに、難しい顔のままだ。
「ふむ……」
「どうした?」
「どうも、おかしいな」
「……不備があるなら直すけど」
「いや、君の問題ではない」
要領を得ない。ややあって、言葉が見つかったのか顔を上げた。
「そうだ、これは仕事の延長だからまだましにしろ、これから君にそう居丈高に話すこともないだろう。『したまえ』とは、今思うと我ながら少し……、」
言って小田桐ははにかんだ。おれは『したまえとか言わない』小田桐もいるのか、などと妙なことに感動した。
その後になってから、重要なことに思い至った。
「あの、小田桐」
「ん?」
「仕事じゃなくてもおれとしゃべってくれんの」
ついがっつくような問いかけになってしまった。
何を話す気なのか知らないが、小田桐はこれからもおれと会話する気でいるのだというようなことを、さらりと言われたのである。したまえとか言わない小田桐が、おれとなにごとかを話す。それは想像を絶することだが、おそろしく魅力的で、おれはつい食いついた。
食いつかれたほうは何を聞かれているのかよくわからないといった顔で、しばらく言葉が継がれるのを待っていたが、おれが聞きたいことが言葉の通りだと理解するしかなくなったのか口を開いた。
「……それは、当たり前だろう。君のことは得難い友人だと思っている」
目の前の小田桐が不思議そうな表情をますます深くしたのは、おれがあからさまに驚いた顔をしてしまったからだろう。こちらとしては不思議でもなんでもない。なにせ想像を絶する二つ返事なのだから驚くのも当然だ。全く順平にしても小田桐にしても、ショッキングすぎることを平気でやろうと言ってくるのだからすごい奴らだ。
「何を驚いているのか、よくわからんが。とにかく、しばらく変な言葉遣いをするかもしれないが、気にしないでくれ」
「あ、ああ、それは、ぜんぜん……」
小田桐の不思議顔は解けなかったが、もう慣れた、というふうに作業に戻ってファイルを片してしまった。そんなに不思議なことはしていない。不思議なのはぶっちぎりで小田桐のほうだ。
不思議生命体に目を奪われているおれを尻目に、小田桐は椅子に置いてあった鞄を取った。
「僕の用はもう終わりだ。君も早く帰りた……、か、帰れよ、か?」
ご丁寧に言い直した!
おれはなんだかどきどきとしてきた。帰れよ、なんて……。聞いた事のない声だった。
頭ががんがんした。
「早く帰るんだぞ。じゃあ」
「まって!」
かるく息をのんで、小田桐は振り返った。
戸惑いが浮かんだ目に、たたみかける言葉が口をつく。
「おまえ、おまえさ、聞きたいんだけど、」
「あ、ああ」
「英語は得意ッ!?」
「まあ、得意なほう……」
「難なし!?」
「な、難?それなら英語より……」
「数学は!」
「そう、数学が――」
「宮原先生問題集全部解けるようになりたくない!?」
小田桐は一瞬ぴたりと止まり、口の中で何かつぶやいた。
宮原問題集――。
それは、シンプルに見えてセオリー通りでは解けないパズル。数学の方法の美をつくした高校問題集。月高生徒全員が所持し、これを理解できれば大学入試数学は極めたも同然とされるが、実際に挑戦して攻略しきった生徒はごくごく少数――。そんな伝説的ブックレット。
「……そうなれば、とても助かるな。それが」
「おれが夏までに全問完璧にしてあげる」
小田桐の目が純粋な感嘆に見開かれた。おれはできるだけおかしみのある芝居がかったふうになるよう心配しながら、両手をかるく広げてみせた。
「つ、つまり、そ、あの、勉強しようぜ」
「一緒にかい?」
「そ、う……!」
全く芝居がからなかった。あやうくウチくる!?とでも言いそうになり、本気の下心透け透けで自分でもびびった。しかし小田桐はそんなことには動じないのだった。
「ぜひ頼みたい。僕にも何か教えさせてくれるだろうか?」
この瞬間の小田桐の真正面の顔をおれはきっと数年は忘れないだろう。おれは彼の糸をつかんだ衝撃的安堵に頭を真っ白にして、しばし口をぱくぱくと開閉した。
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つ、つまり、そ、あの、勉強しようぜ!正直小田桐と個人的ともだちとして付き合い始めるのは地味に難しく、しかしそれこそが小田桐秀利という男との関係の真実だと思うので男主人公および女主人公告白なしルートは好きです。
この後ふたりは図書館やらお互いの部屋やらで勉強会を、女主人公編の「狭き門外のひとびと」は大人数でワヤワヤと勉強しますが彼らはほとんどふたりきり(たまに平賀入り)で勉強会をしつつ、個人交流を深め、ときに見ての通りの佐伯ハルの想いが暴発したりなどもしていきます。今後のメモ公開でそのダイジェストをお見せしていきたいと思います。
ところで小田桐の得意科目ってなんでしょうね?
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